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2015.08.14

EXHIBITION: 06 イベントレポート GamFratesi トークショー

EX06 EX06
EX06 EX06

EXHIBITION: 06
イベントレポート
GamFratesi トークショー

CIBONEではイタリアとデンマーク、異なるルーツを持つ2人のデザイナーによるGamFratesiのエキシビションを開催中です。
革新的なデザイン潮流を起こしてきたイタリアデザインと、先人の知恵や技術を大切にしながら名作を築いてきたデンマークデザインが融和した彼らのデザイン。モデレーターにライターの猪飼さんを迎えて先日行ったトークイベントの様子です。

ガムフラテージ
LOOK INSIDE 外からの刺激、内からの感情


いま最注目のデザイナーと言われるデンマークのガムフラテージ。彼らが考えるデザインのビジョンは何に根付いているものなのだろう。


デンマーク生まれのスティーネ・ガムとイタリア生まれのエンリコ・フラテージ。スティーネがイタリアで建築を学んでいたときにエンリコと知り合い、ユニットを結成。その後、コペンハーゲンに拠点を移し、アトリエをオープンした。公私ともにパートナーでもある2人は、フレデリシア、グビ、リーン・ロゼ、カーサマニア、カッペリーニなど、名だたるヨーロッパのメーカーとの協働を続けている。そんなガムフラテージのデザインを語るうえで重要なキーワードがとされるのが、「Tradition」「Communication」「Intimacy」の3つだ。

“1つめのキーワード「Tradition(伝統)」とは、文字通り歴史のなかから何を受け継ぐかということです。どんな状況においても、何もないまっさらな状態からモノが急に生み出されることはありません。そこに流れる文化を読み解くことはデザインにとってとても大切なことなのですから。

そして、デザインは我々のような作り手だけが存在しているだけでは意味がありません。モノを通じて、いかにユーザーにメーカーやデザイナーの意志を伝えるかが重要。使い手の振る舞いまでをデザイナーは想像する必要があるのです。そういう意味で、2つめのキーワード「Communication(コミュニケーション)」は、私たちのデザインにとってなくてはならないものです。

感覚を研ぎすまし、自身を認識する意味で3つ目のキーワード「Intimacy(親密さ)」は、デザイナーである前に、人としてとても大切な感覚でしょう。デザインしたものがどれほど人々に寄り添い、長年に亘り暮らしをともにできるか。そして人々もモノに愛情を感じられるようになるかが重要だと思うのです”


ガムフラテージのデザインにおいて、さらに特徴的なのは、それぞれが強いデザインの思想と歴史を持つイタリアとデンマークの出身であるということ。互いの母国の文化をどのように理解し、自身のクリエーションに活かしているのだろう。

“生まれながらに、そこに確固たるデザインの系譜が存在していたため、私たちにとってはそれはとても自然な環境であり、「イタリアのデザインはこうであり、デンマークのデザインはこうである」と明確に分析してはいません。ただ、それぞれが大きく異なる方向性を持っていることは確かです。

デンマークは、クラフトマンシップと機能性に重点を置いているのに対し、イタリアは革新性を目指し、人々の暮らしをいかに改善するかということを考えてきたように思います。

私たちのデザインにはその両方が活かされていますが、互いがそれぞれの国に住んだ経験があるためか、各国の利点を細かく計算し取り入れているというより、有機的に絡み合っている感じがします。

ときに伝統は考えを保守的にしてしまい、足かせのように感じることもあるかもしれません。しかし、デメリットばかりを見つめるよりも、伝統をもっと多角的に見つめ、そこに眠る技術やメッセージを引き出していくことこそ大切。尊敬の念を持って取り組めば、前進する力も生まれるはず”

自分たちが生きる現代は、それ以前の歴史のなかでさまざまな発見、発明が繰り返され、生きる知恵が伝統として伝えられてきたからこそ存在しうるもの。そんな過去への良き理解、前向きな気持ちこそ、ガムフラテージが独自の表現を生み出す源となっている。

“イタリア人とデンマーク人の私たちが一緒に暮らし、常に相手と自分の違う点ばかり責め合ってばかりいたら、ケンカが耐えないでしょう? それよりも互いの歴史や文化背景を理解し、バランスをとりながら意識を深めることこそ仲良くできる秘訣。それがデザインにも大きく影響を及ぼしているんです”

このように違う伝統と文脈を持った2人だが、一体どのようにデザインを発想し、発展させていっているのが気になるところ。

“いきなり具体的な形状を思いつくことはありません。機能やそこから派生する感情、感覚のようなものを優先して考え、作業を続けていくうちに、形は自ずと決まってくるのです。しかし、そこに至るまでのプロセスは非常に複雑で時間がかかります。

前述したように2人はそれぞれ違う考えをもっているので、デザインを発展させていくメソッドも異なります。互いの伝統、そしてクラフトマンシップやコンセプチュアルな複合的要素を一つひとつ検証していきます。また、互いに建築出身ということも影響してか、技術的なディテールも気になります。

全体を通じて、もっとも大切なのは、「素直」であること。さまざまな要素、段階、思想が重なりあったときに不自然になったり、無理な感じにならないように意識しています”


ガムフラテージの独特のデザインプロセスを、もっとも明解に示すプロダクトと言えば、今春カッペリーニから製品化されることが決まったモビール〈Balance〉だろう。

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“これは、私たちが2014年のストックホルム・ファニチャー・フェアのGuest of Honnerに選出されたときに発表した作品です。

このイベントでは、毎年最も注目される一組のデザイナーによるインスタレーションが展開されるのですが、私たちはこれまでの参加者のなかで最年少のデザイナー。そのため、かなりの緊張とプレッシャーを感じつつ、ガムフラテージとしてのインパクトをしっかり与えたいという野望にもかられました。

そんなとき、ふと自分たちが相反する感情のなかで均衡(バランス)を取ろうとしていることに気付いたのです。私たちの作品づくりに限らず、誰にでもいい日と悪い日があって、良いバランスを取ろうとしている。

こうした日常的な感覚を作品にそのまま転化してみようと、モビールのデザインを思いつきました。これまでにもアレキサンダー・カルダーやブルーノ・ムナーリのように美しいモビールをデザインした人物は大勢います。ならば、私たちなりに機能性を持ち、工業化もしやすい現代的デザイン思想を兼ね備えたものを試みた結果が、この〈Balance〉なのです。

モジュール化することで好みに応じてパーツの追加ができるほか、比較的サイズ感も大きいため、パーティションや防音システムとしても応用することができます”


そして、もう一つ気になるのが、フレデリシアのソファ「HAIKU」や1607年創業というスウェーデンの老舗ブランド、スクルツナのトレイ「KARUI」のように、作品に日本語の名前をつけている点だ。

“イタリア語と比べると、日本語は一つの言葉に多様な意味が存在します。言葉通りの意味よりも、その奥になにかもっと違うなにかを示していることの方が多く、振る舞いや考えや気持ちなどを、とても詩的に表現しています。

私たちはデザインを考えるとき、プロダクトがユーザーにどのような扱いを誘発するかというような「振る舞い」を真っ先に考えます。このときに日本語の持つ奥深さが頻繁に頭のなかをよぎるのです。

たとえば「HAIKU」は、エモーショナルでありながら、とてもコンパクトであることを示しています。五・七・五の計17文字という短いセンテンスのなかにさまざまな情景や感情を取り込み、同時に季節までを表現する俳句の洗練された感覚は、まさしく自分たちが目指すところであることから、ソファのネーミングに使いました”

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広い視野からデザインを見る彼らにとって、活動拠点であるデンマークの地域性と昨今うたわれるグロバリゼーション、多様性との関係をどのように感じているのだろう。

“私たちはいまコペンハーゲンに住んでいますが、活動の当初はイタリアと行ったり来たり頻繁にしていましたし、いま東京に来ているように常に世界中を移動しています。私たちに限らず、誰しも生活の拠点、ホームとなる居場所というものが存在すると思いますが、ときにそこから出て、自分がいた場所を外から眺めた方が本質的なものが見えてくることがあります。

居心地の良い場所に留まることは楽ですが、別の角度(他人の視点)から見ると、なにかしら欠落しているものがあることに気付きます。常に住人であるのではなく、ときにゲストとしての視点を養うことで、個々人の意識がより明確になるのです。

異なる文化、意識を共通するというのは、一方で気遣うことも多く、正直疲れてしまうこともあるでしょう。しかし、互いを尊重し、妥協点を探しながら、一日終わったときに「今日もハッピーだったな」と思える。そんな風に生きていけたらいいなと思っています”

文/猪飼尚司