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STORE'S NEWSPiet Hein Eek × 長坂常
トークセッション全文公開

2026年6月19日(金) 19:00 - 20:00

CIBONE(表参道)にて開催中のPIET HEIN EEK個展「with the maximum respect for the materials」の開催を記念し、6月19日(金)のオープニングレセプションにて、本展のために来日したPiet Hein Eek(ピート・ヘイン・イーク)と、建築家 長坂常氏(スキーマ建築設計代表)を迎え、一夜限りのトークセッションを開催いたしました。


ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。

当日のトークセッションの内容を、以下にて公開いたします。

───


―お二人にとっての“素材の魅力”とは何ですか?

Piet Hein Eek(以下Piet):素材の何が魅力なのかというよりも素材には何かインスピレーションを掻き立てるものが備わっていると感じています。1989年頃大学の卒業制作を考えていた時、たまたま材木置き場に行って出会ったのが廃材でした。その頃周りの学生はできるだけ新しい素材を使おうとしていましたが、私からするとみんなが同じことをやっているように見えました。そんな時にたまたま目にした廃材が私にはとても美しく見えたんです。それは何か私に訴えかけているようでもあり、みんなが使っている素材とは全く違う魅力を持っているように思えました。それまで廃材というのは屋内のインテリアデザインの目的で使うものではありませんでした。けれど廃材を目にした時、廃材それぞれに美しさ、すなわち物語があって、だからこそ使いたいと思ったんです。あの日材木置き場に行ったからこそ私は今ここにいるわけで、不思議な巡り合わせを感じます。

長坂常氏(以下長坂):僕も結構似ていて、僕の場合は素材っていうのは単にマテリアルもあるんですけど、建築をやるので、そこにある場所、場所性も一つの素材だと思うんです。その場所があるだけ、その分だけ可能性がたくさんあるというふうに思っていて。なので、その場所に行って、そこで感じたことを一つ一つ作っていくと、世界の中に違うものが一つ一つ生まれてくるという。それがすごく素敵なことだと思ってずっとこの仕事をし続けている感じがします。

Piet Hein Eek × 長坂常 トークセッション

Piet Hein Eek

―お二人とも素材や機械を一般的ではない方法や使い方をされていますが、その狙いは何でしょうか?

Piet:もしかしたら期待した答えとは少し違うかもしれませんが、私にとってはむしろ当たり前で明白な選択です。それは単にこれまで誰もやっていなかっただけであって、間違った使い方というよりも自分としてはまさにこうあるべきというつもりでやっています。

長坂:僕も別に間違えて使っているわけではなくて、普通にそうなることがわかっていて使うので、それを「誤用」って言った方がちょっと楽しくなるというか、敷居が下がっていろんなことができそうな気がするっていう意味でそう表現しているんですが、同じことをストレートに言うのがピートだなって。対してちょっとこう斜めにアプローチするっていうのが僕なんだなって少し反省しました(笑)。

長坂常

長坂常

―そうしたユニークな方法でプロジェクトを進めていくと予期せぬハプニングが起こると思いますが、それに対するお2人の向き合い方やその時の気持ちなど教えてください。

Piet:建築のプロジェクトにおいては多くの専門家と仕事をしますが、時に喧嘩してしまうこともあるんです。彼らの言う絶対理論は私たちも理解できますが、理論に縛られて制限が多い。でも私は直感でこれは大丈夫だっていうのを経験でわかっているんです。彼らの理論は本当にその現場で作るということを理解した上での知識ではないため、うまくいかないことが多いんです。もしかしたら答えになっていないかもしれませんが、理論だけに頼らず、実際の現場の経験に基づいた知識と上手く結合できれば新たな物事が可能になっていくと思います。

長坂:いやもうかなり共感です。僕もすごく苦労しているのは、やっぱりCADの中でずっと仕事をやっているんで、重力のないような世界を想像しているのに対して、Pietは毎日重たいものを持ちながら、これがどれくらいの重さになっているのかみたいなのが感覚としてしっかりあって、物との接触が圧倒的に違うんですよ。でも今図面描かなきゃいけないし、一方でもっと手を動かしてPietのような感覚でデザインしたらもっと違うものができるのにって常々思っているんですけど、まあなかなかそこにたどり着けない。建築のスケールと量の問題でその重力を感じながらデザインをしていくっていう現場になかなか近づけないっていうのは、建築家においてはあるあるです。どうしても数値に頼ってしまったり、人の計算に委ねてその安心感を得ざるを得ない部分があるので、Pietが私たちと全く違う土俵で働いているのは憧れでもあります。
ただ一つ言うと、地震は想像できないでしょ?と思いますね。日本の場合は今大丈夫でも、この先どういうことが起こるかはわからないということに対して考えないといけないので、ちょっとそこはオランダの建築と日本の建築は事情が違うかなと思いますけどね。

Piet:もちろん私が話しているのは全てオランダのことですので、全然日本とは違う話になってくると思います。もちろんオランダでも建築では計算がとても重要で、その安全の基準も変わってくると思います。
それとはまた別に欧米と日本の一つ結構決定的な違いがあるなと思うことがあって、それはものづくりとかに対する姿勢にも表れていると思うんですが、日本はできるだけ間違いを起こしたくないというような考え方があると思うんです。全てのことをちゃんとやって、できるだけ正しい決断をしていく。そして、そのためにものすごく細かいところまで注意を注いでいくと思うんですけど、それはつまり何かがうまくいかなくなった時に、そのケアをしないといけないのがすごく大変だから、できるだけそれを避けるような、ていねいなものづくりの過程っていうのがあるんだと思うんです。
対してオランダや他ヨーロッパの国はある意味雑というか、何かがうまくいかなくなるところもそんなに恐れていなくて、それが受け入れられている。そしてそれをまた一から構築するのもそんなに嫌じゃないから、それが前提であるという違いがあると思います。でもそういうすごくていねいな、できるだけ間違いを起こさない、その時に一番正確な決断をすることをよしとする日本の考え方というのは、私にはとても興味深いことですし、だからこそ日本がすごく好きで、インスピレーションを受ける場所でもあるんです。

Piet Hein Eek × 長坂常 トークセッション

長坂:日本とオランダの話が出たので僕もお話しすると、以前「フラットテーブル」を日本だけでなくオランダでも作ったことがあって、その時に日本とオランダで全然作り方が違うなと感じたことがあったんです。オランダの工場は明日バイトが来てもその人ができるくらいのマニュアルがしっかりあったような気がするんです。一方で日本のものづくりはなかなか実践の場に立たせてもらえないで、じっと見ながら学んでいくみたいな、そういう形で教わってきて。 だからなんか全然作り方も違うし、日本だと一体何が生まれてくるんだろうという不思議な感覚があるんです。逆にオランダはストレートに見通しが立っていて、最初からゴールがこう見通せてる感じのものづくりをするなっていうのは思ったことがあるんですけど、その辺Pietはどういうふうに感じますか?

Piet:長坂さんの経験を聞くと結構驚くというか、私の感覚だとオランダよりも全然日本の方が本当に完璧に工房でものを作っていると思うので、オランダでどうしてそうだったのかはわからないです。けれども一つ、もし自分がその傾向というか、オランダの特徴をお話しするとしたら、あくまでもすごく現実的というか、実用性や効率的であることをすごく大事にするっていうところはあると思います。例えば私の工房であれば、そこで働いている職人さんというのは、一人一人が自分自身で物事の問題を解決する全権が委ねられていています。もちろん職人さん一人一人も、実際にドローイングから立ち上げてものを作ることができるようになっていますし、研修などもあります。なので、お話を聞くと、もしかしたら長坂さんが共同制作された工房もそういったところだったのかなという気がします。というのも、今は労働力をかけずに簡単にできるものをどんどん作ろうとする動きがすごくあるので、それに対抗するために、できるだけコピーできないような、あるいはコピーしても意味がないような、ものすごく特別なものを作っていこうとする動きもあると思うんです。で、そうなってくるとやっぱり職人一人一人の理解力や能力の高さが必要になってくるので、そういったところと一緒に共同制作されたのかなという気がします。

長坂:今はもう日本も変わってきてますけど、やっぱり労働にかける時間の意識がだいぶ違うような気がするんですよね。 結構長い時間かけて作ってくのが日本は大好きですし、それに対してもしかしたら工場とかのレベルの違いとかもあると思うんですけど、でもやっぱりオランダ人は合理的というか、シンプルで無駄なことはしないなって思うし、スピードが本当に速いなっていうのは感じます。オランダ人のインターンの方がうちで一緒に仕事をしていた時に、僕らはすごい長い時間考えてものを作っていくのに対して、彼らは3時間でそのものを整理して、圧倒的な速さで物を作っちゃうわけで。 それってどっちがいいのかはよくわかんないんですけど、絶対的な違いがあるなっていうのはいつも感じています。Pietは日本で何か作ろうとは思わないんですか?

Piet:日本で作ったことはあるんですよ。それこそ15年前のプロジェクトだったと思うんですけど。最近でも大使館からちょっとご用命いただいているようなプロジェクトがあって、日本の工芸の職人さんと、ランダムにヨーロッパのデザイナーと共同して何かを作るっていうお話もあったので、それは面白いかもしれないと興味は持ちました。ただ、自分が誰かと何かをやるっていうのには、必ずまず出会いがあるというふうに思っていて。こういうデザインがあって、こういうことをやりたいから、そのために人を探そうじゃなくて、あくまでもどなたかと出会って、お互いにすごく気に入って好きになって、じゃあ何かやりましょう、こういうことをやりましょうというふうになる方が、実際に共同作業としてはうまくいくんじゃないかと思うんです。なので、もしそういう出会いがあればぜひ、という感じです。

長坂:そうですね。例えば日本の古材を使ったらどういうものができるのか見てみたいですね。あとはその彼が作っているものって、自分でというか、仲間で作っているものを多く見てきているような気がするので、それを人に委ねるってどういうことなんだろうとか、実際にやっぱり本人が来て手を動かして作るのかなとか、どういう可能性があるのかは結構いろいろ想像できて面白いなって思います。

Piet:そのお答えとしては、もうこれまでと変わらずに、やっぱり自分にとって明白なことをするだけなんですけれども、例えば今、南セネガルのダカールで共同プロジェクトをやっていて、現地の工芸の人たちや職人たちと一緒にものづくりをしているんですけれども、そこでもやっぱり最も自分にとって当たり前に思うこと、明白だと思うようなことをやっています。実際、今来日していて、多分来週の月曜日に日本で古材などを扱う製造の方々とお会いすることになって、彼らの工場を訪ねることになっているんですけれども、それはいい出会いがあったからなんです。
そこでの素材が持っているクオリティや、そこにあるさまざまな機材、施設のキャパシティ、そこでの人、そういったものを見た時に、何が最も明白かっていうのはわかるんです。なので、私が工場などを訪ねると、すぐにもうここにとって一番普通なこと、あるべきことはこれだなっていうアイデアがいつもすぐ私の頭の中に浮かんでくるんです。

Piet Hein Eek × 長坂常 トークセッション

―お二人にとって何が物や建物の美しさを決めると考えますか? そもそも素材がいいからですか? それとも構造ですか? もしくは時間ですか?

Piet:答えは2つあって、まず私が一番興奮するのは、何かが不完全な時で、不完全な時に「あ、これは成功したな」と思います。さまざまな有名デザイナーたちのプロダクトもたくさんありますが、それもどこか少し不完全なんですよね。ちょっと座りづらいとか、わずかに歪んでいるとか。私はそれが一番いいというふうに思うんです。だからその僅かな失敗に美があると感じます。反対に全てが完璧だと、もう興味を持てないというか面白くないので、何かそこに弱さというかちょっと脆弱で頼りないと感じる時に、一番魅力というか、自分が興奮するんだと思います。
もう一つはデザイナーとしての答えになりますが、何かを作る時のアイデアというのはとてもシンプルで、そのシンプルなアイデアから始まってプロダクトとして作られた時に、最初に元となったアイデアがまだそこにあるなと感じる時にそれはとても美しい、いい完成だなというふうに思います。どういうことかというと、こういうことをしたいなというシンプルなアイデアがあって、この素材だったらこうなるんだろうな、こういうふうにしたらそうできるんだろうなと思ったことがちゃんと形になっていて、出来上がった時に全てが説明もいらないくらい自然に感じられるのが私にとっての完成なんです。言い換えると、自分がいつも望んでいるのは、最も自然に感じられるという状態であり、それを目指し続けているとも言えます。

長坂:倣って僕も2つ。一つはよく「知の更新」っていうことを言ってるんですけど、それは知らなかったことを知るごとに新しいものがその分だけできるということ。さっき言ったマテリアルの可能性やマテリアルの分だけ可能性があるっていうことは同じなんですけど、そのことをちゃんと人に伝えられたり、そのアイデアが誰か他の人に再利用されて何かものを生み出せたなっていうふうに思う時に喜びを感じます。
もう一つは、僕らが知の更新をして建築としての仕組みを提供したとして、それを僕じゃない人によってさらに知の更新がかかっていく。自分で最初作ったはずなのに、どんなデザインかってわからないという状況が訪れる、というこの可能性。それがまあ自分にとっては幸せで、建物だけでなく最初作られたものがそのままそこにある状況よりかは、いつか来た時に「え? 今こんなことになってるの?」っていうふうに楽しめるようなものが作れたらいいなといつも思っています。


―Piet、長坂さん、貴重なお話をいただきありがとうございました。そして本日はこのエキシビションの空間全体をスタイリングしていただいたインテリアスタイリストの作原文子(さくはら ふみこ)さんにもお越しいただいていますので、作原さんからも少しお話をお伺いしようと思います。

作原:今回CIBONEの展示に参加させていただいて、Pietにもお話を伺って、素晴らしい考えを持たれているなっていうのを改めて感じました。 彼はとにかく、素材を大事に考えているということで、私自身もデザインするし、スタイリングをする時に、その物の持っているその素材感とか、手触りとか、重なっていった時の造形とか、そういう型紙みたいなものをすごく自分の中で大事にしています。だから私はPietの作品が好きなんだっていうのも思ったんですね。

作原文子

作原文子

このスタイリングを作っていく中で、“完璧じゃなくて大丈夫”という勇気をもらえるデザイナーだなとも思ったし、今回は、偶然にもいろいろと小物とPietのプロダクトとのカラーリングがぴったり合ったので嬉しかったです。普段もそうしているんですが、今回は「時間の経過」や「人の気配」がテーマであったので、それを頭に置いて、ヴィンテージのものだったり、結構自分の私物とかも入れました。
CIBONEさんとは以前もPietのスタイリングをさせていただいているので、今までとは違った見え方をさせたいと思って、クレート(梱包に使用される木枠)を使ってスペースを分けたいというオーダーを出しました。 で、実際に家具が運ばれた時に、その入っている箱を崩して壁面を作るとコーナーもできたり、お客様の動線も自然にできたりする風景ができるかなと思ったんです。それも自分の中ではさっきPietも話していましたけど、なんとなく自然にうまくいくという感覚が自分の頭の中にあって、そういうこれまでの実践的な感覚によってスタイリングがうまくいくというのは彼のものづくりのプロセスと一緒だし、彼の作品だとできるんですよ。そうやってスタイリングしたら最終的にすごいマッチしていい空間ができたので、Pietが喜んでくれてると嬉しいなと思いました。
長坂さんも初めてPietの作品に出会った時に「すごい人が来たな」と思ったと以前おっしゃっていましたが、私も彼のプロダクトを初めてスタイリングした時に同じように感じたんです。
昔、長坂さんに「Pietの作品って主役にも脇役にもなって、私の中では何にでも合うんですよね」と話したら、長坂さんが「それってデザイナーにとって一番の褒め言葉だよね」っておっしゃっていたのを私はよく覚えています。でも本当に今日いろいろとお話を聞いていて、Pietは不完全ことに興味があるとおっしゃっていながら、なぜ彼のプロダクトがこんなにも完成されてるかというと、そこには何年も彼が続けてきている真実の努力の積み重ねがあるからで、その上にデザインとしての緩やかさがあるからこそ、彼のプロダクトがすごく素敵に見えるんだろうなっていうのを今回お話を聞いていて思いました。 ありがとうございました。

Piet Hein Eek × 長坂常 トークセッション

Speaker:
Piet Hein Eek(ピート ヘイン イーク)
1967年オランダ生まれ。
Academy For IndustrialDesign 卒業後自身のデザイン・アトリエを設立。自身でデザイン、製作、流通を行うための会社、Eek en Ruijgrok vofを設立しプロダクト、オーダーメイドの制作をしている。

長坂常(ながさか じょう)
スキーマ建築計画代表。1998年東京藝術大学卒業後にスタジオを立ち上げ、現在は千駄ヶ谷にオフィスを構える。家具から建築、そして町づくりまでスケールも様々、そしてジャンルも幅広く、住宅からカフェ、ショップ、ホテル、銭湯などなどを手掛ける。どのサイズにおいても1/1を意識し、素材から探求し設計を行い、国内外で活動の場を広げる。日常にあるもの、既存の環境のなかから新しい視点や価値観を見出し「引き算」「誤用」「知の更新」「見えない開発」「半建築」など独特な考え方を提示し、独自の建築家像を打ち立てる。

Special Thanks:
作原文子(さくはら ふみこ)
岩立通子氏のもとでアシスタントを経験した後、1996年に独立。主に雑誌、カタログ、TV-CM、エキシビション、ショップディスプレイなどのスタイリングを中心に活動、2007年、2020年には映画美術にも関わる。手掛ける雑誌は、インテリア誌、女性誌、男性誌と幅広く、日本のインテリアスタイリストとして第一線で活躍。柔軟な感性を活かし、さまざまなテイストをミックスした独自のスタリングは、男性女性問わず定評がある。「Found MUJI」「INTERSECT BY LEXUS」のウィンドウディスプレイや、企業の展示会の空間ディレクションなども行う。

Interpreter:樅山智子
MC:齋藤祥高(CIBONE)
Photo(トーク):Kaori Umezawa




本展は7月19日(日)までCIBONE(表参道)にて開催しております。
Piet Hein Eekのものづくりの原点ともいえるキャビネットの数々を一堂にご覧いただける貴重な機会です。
本トークで語られた思想やものづくりへの姿勢を、ぜひ会場でもご体感ください。

皆様のご来場を心よりお待ちしております。



with the maximum respect for the materials
PIET HEIN EEK
2026年6月19日(金) - 7月19日(日)
開催場所 : CIBONE(表参道)

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